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ATF(ATフルード)の交換について

最終更新日: 作者:月寅次郎

ATFとは


ATFのうち、ATとは、"Automatic Transmission"のことで、オートマチックトランスミッション、つまり自動変速機を意味します。略して「オートマ」と呼ばれています。

ATFのうち、Fは、"Fluid"のことで、フルード、つまり「流体」ことです。
ATFはオートマの中に入っているオイルで、自動変速機能を作動させるために圧力を伝達するという重要な機能を果たしています

ATFも、油脂類のひとつですので、成分的な観点からはオイルということもできるのですが、機能的観点から「フルード」と呼ばれています。
潤滑を目的とする油脂は「オイル」、一方で圧力伝達などを目的とする作動油は「フルード」と呼んで区別されています。

潤滑目的の油の例:エンジンオイル、 圧力伝達目的の流体の例:ブレーキフルード

ATFを 交換すべきでない場合


「交換しない方が良い」というのは?

ATF(ATフルード)の交換に関しては否定的な意見を聞くことがあります。
「交換しない方が良い」というものです。

ATFもオイルの一種ですから、高熱に晒されることにより酸化したり、経路内で発生したスラッジ等を、自分の中に取り込み、分散させることによって汚れていきます。

にもかかわらず、交換しない方が良いというのはどういうことでしょうか?
これはあまりにも長期間ATFを交換しなかった場合は、安易に交換するのは考え物ということなのです。

ATフルードの 清浄分散機能

ATフルード(オイル)には、清浄分散機能といって、取り込んだ汚れを自分自身の中に取り込んでおくという重要な機能があります。

言い方を変えれば、発生した汚れを自分の中に閉じ込めて、沈殿させたり、フルード経路の壁面に付着させたりしない。という性能です。

この清浄分散というフルードの機能と、フルードの交換という作業が合わさることで、ATフルードの経路は、清浄な状態を長期間に渡って保てるということになります

清浄分散機能の 限界

しかし、ATフルードの清浄分散機能にも限界があります。
長年にわたりATFを交換しなかった場合、取り込んだ汚れ量が清浄分散機能を超え、飽和状態となることがあります。

このような場合、汚れやスラッジはフルード経路に付着したり、沈殿したりすることになります。

ATF交換が、汚れの移動と"詰まり" を誘発

フルード経路内の壁面などに、汚れが付着したとしても、それがすぐにATの機能に影響を与えるというわけではありません
しかし、使用し続ける分にはさほど影響がないとしても、フルード交換をすることによって状況が一変する場合があります。


「一度フルードを抜いて、再びフルードを満たす」という行為が、沈殿していた汚れやスラッジを移動させ、バルブ等の経路の狭くなったところに留まらせてしまうことがあるのです。
運悪く、ATの作動に影響を及ぼすところにスラッジが詰まってしまうと、ATの作動不良となって表面化することがあります。


"断水"が良い例になるかもしれません。
通常不自由なく使えていた水道が、一度断水した後には、"赤水"が出て困ることがあるように、ATの経路内でも同様のことが起こりうるのです。

違うのは、水道の場合、しばらく水を流しっぱなしにしていれば解決してしまうのに対し、ATの場合は、経路の狭さ、複雑さなどが桁違いなので、水道のように簡単には解決しない。ということなのです。

シール、かしめ等も 要注意

古くなったATFは分散性能が落ちるだけではありません。
最も重要な、"圧力を伝達する"という能力も、低下してしまうことがあります。


ATFが劣化しきってしまった車両の場合、ATFの経路におけるシール類や"かしめ"類も、密閉する能力が低下しているものです。
しかし、ATF自体の圧力伝達能力も、ともに低下しているため、お互いが低いレベルでバランスが取れ、ATとしては正常に機能していることがあります。


しかし、ここで新しいATFに交換すると、圧力伝達能力のみが正常に戻ることになります。
経路内の弱くなってしまったシール部分やかしめ部分は、正常な圧力に耐え切れないために、渋滞や高速運転などで、ATFが高温高圧になった時に、最も弱い部分から吹き出てきます
(いわゆる、"吹く"というやつです。)

要交換のパーツは 一度に一つしか判らない?

吹くことによって、要交換のパーツが特定され、対処して一件落着となればよいのですが、なかなかそうはいかないことが多いです。

密閉力が弱くなっている部分が複数あったとしても、最も弱い部分のみが吹くことになるからです

最も弱い部分が吹くことによって、圧力が弱まり、他の弱い部分は吹くことを免れてしまうのです。
要交換となるほどに機能が低下しているにもかかわらず、さらに悪い部分があるために機能低下が表面化しないという訳です。


このような理由で、
最も弱い部分が吹く ⇒ その部品を交換 ⇒ 次に弱い部分が吹く ⇒ その部品を交換 ・・・というように、圧力保持能力の低下している部品が無くなってしまうまで、不幸な循環が続くことがあるのです。
このような現象は、AT経路だけではなくエンジンを冷やすための冷却経路でも、よく発生します。

きちんとした整備のプロフェッショナルであれば、長年の経験から、このような不幸な状態に陥らないよう、適切なアドバイスをしてくれるはずです。
例えば、不具合が出るたびに、一つ一つ交換するのではなく、「遅かれ早かれ不具合が出そうな部品をリストアップし、予防保守的な観点から一度にまとめて交換することで、工賃を節約する」 …などの提案をしてくれるはずです

自分の判断に、自信と責任が持てないようであれば、素直にプロの判断を仰ぎましょう。
一概に言い切ることはできませんが、年代の古い車ほど、ATフルードを交換せずに放置した際の「影響」が大きいように思えます。

ATFを交換する際は、スキルの確かなお店で

念の為に書いておきますが、ATFの交換を、DIYではなくてプロに依頼する場合は、スキルの確かなお店に依頼しましょう。
消耗部品をやたらと交換することで工賃を稼ごうとするようなお店は、通常ならば交換する必要のないオイルやフルードを、「交換したほうがよい」と、「安易なおすすめ」をしてくることがあります(車に詳しくなさそうな人を見つけては、カモ扱いしているのでしょうか?)

ATの不調で、オートマミッションのオーバーホールや、リビルドが必要になり、頭を抱えたことのない店に限って、こういう安易な勧誘をしてきます。

このような「不必要な交換」に引っかからないためにも、一度は自分の車の「ATF交換推奨距離」を確認しておきましょう。
交換推奨距離を超えていないにも関わらず、「交換しておくと安心ですよ」というような文句で、いたずらにユーザーの不安を煽ってくるようなショップには、近づかないほうがよいと思います。

ATF交換不要の車種もある

最近では、ATFに負荷をかけにくいATの開発と、ATF自体の高性能化により「ATF交換不要」となっている車両もあるようです。

ATFフィルター
メーカーがATF交換不要と明言している車両は、一般的な使用状況であれば、本当に交換せずに乗り続けることができますが、昔のメルセデスベンツのATなどは、長期間ATフィルターを交換せずにいると、フィルターの「濾紙」が、劣化してボロボロになり、屑状になった濾紙がAT経路内に流れ込んでしまう可能性があったため、ある程度の年数を経過した車両は、ATFだけでなく、ATフィルターも交換しておいたほうが良いというのが定説でした

もちろん、ATフィルターを交換するには、ATフルードを抜いて、フィルターが格納されているATフルードのオイルパンを外す必要がありましたので、そこそこ大変な作業ではありました。
ATフィルターは、エンジンオイルのフィルターのように、メンテナンスを考慮したカートリッジ構造になっておらず、画像のように、板状のスチール製容器内に紙のフィルターが仕込まれた構造でした。
ATFフルードは、このフィルターを通ってからオイルパンに落ちる仕組みになっていました


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